生成AIで弁理士・特許事務所の仕事はなくなる?知財業務の未来を現役知財担当者が解説

エンジニアのキャリア

近年、ChatGPTをはじめとする生成AIの進歩は目覚ましく、「文章を書く仕事はAIに置き換わる」と言われるようになりました。

そして、文章を書くことの多い知財業務においても生成AIの活用が様々な専門家によって積極的に検討されています。

そのため、

  • 特許事務所へ転職したいけれど将来性はあるの?
  • 弁理士試験の勉強に打ち込んで合格しても意味がなくなる?
  • 知財の仕事はAIに奪われるのでは?

と不安に感じている人も多いかと思います。

私自身も企業で知財業務に携わり、日常的に生成AIを活用しています。その経験を踏まえると、結論はシンプルです。

生成AIによって知財業務は大きく変わりますが弁理士や知財担当者が不要になることはないと考えます。

この記事では、「生成AIによって知財業務の何が変わり、何が変わらないのか」を実務目線で解説します。

この記事はこんな人におすすめ
  • 知財業界への転職を考えている人
  • 弁理士試験の受験を考えている人
  • 知財業界の若手実務者

生成AIで知財業務はどう変わるのか

ここでは、

  • 知財戦略に沿った知財活動
  • 発明が生まれてそれを出願・権利化して活用するまでの定常業務
  • 他社特許対応、契約といった非定常業務

といった各業務と生成AIとの相性についてまとめました。

知財業務生成AIとの相性
権利化方針・知財戦略立案★☆☆☆☆
発明発掘★★☆☆☆
先行技術調査★★★★★
発明提案書作成★★★☆☆
新規出願打ち合わせ★★☆☆☆
特許明細書作成★★★★☆
拒絶理由通知対応★★★★☆
権利活用★☆☆☆☆
侵害予防調査★★☆☆☆
侵害判断★☆☆☆☆
契約★★☆☆☆

生成AIが得意なのは、

  • 要約
  • 比較
  • 検索
  • 文章作成

であり、これらとの相性のよい業務が生成AIに置き換わっていくと考えます。

ただし、当たり前のことですが、生成AIは、知財担当者や弁理士業務の効率化に有効なツールである一方、最終成果物の責任は知財担当者や弁理士自身が負うべきです。

生成AIでなくなる知財業務

生成AIでなくなっていくと考えられる業務を挙げていきます。

これらの業務に共通することはいずれも「特許事務所の特許技術者(弁理士の補助者)」が行う業務である点です。

  • 特許明細書の作成補助
  • 中間処理の補助
  • 先行技術調査

特許明細書作成の補助

現状では、様式に則った特許図面の作成と図面情報の文章化が生成AIにとって難しく、発明提案書や打合せ議事録、設計図面から、特許技術者が書くレベルの特許明細書の初稿作成はできていないのですが、これは、時間と生成AIの進歩と共に解決され、技術説明書としての明細書は生成AIでも十分に書けるようになるのではないかと考えます。

一方で、事業戦略や特許制度、法律の知識を踏まえて、「広くて強い権利」にするために明細書をブラッシュアップする工程では弁理士や知財担当者といった人間が責任を持ってチェック・修正する工程が必要不可欠であると考えます。

中間処理の補助

こちらは、基本的に公開済みの情報のみを使う業務なので、情報漏洩によるリスクが低く、生成AIの活用が積極的に試されている業務です。

簡単なところでは以下のような作業に部分的に生成AIを活用している人も多いのではないでしょうか。

  • 本願の特許請求の範囲と引用文献の記載内容との対比表の作成
  • 外国の引用文献の翻訳
  • 補正で追加する内容が引用文献のどこにも記載されていないことの確認

中には審査基準を学習させて拒絶理由を解消する補正案の提示させるところまで試している人もいるかと思います。

生成AIの能力が上がれば、審査基準に基づいて拒絶理由を解消する補正書案や意見書案を起案することは可能になると考えます。

一方で、生成AIを使って単に拒絶理由を解消して特許にできたとしても、自社のビジネスの役に立たない権利になっては意味がありません。

そこで、発明者をはじめとする事業部が持っている自社情報や他社情報といった情報を聞き出して、そういった情報も考慮して自社のビジネスの役に立つ権利にするための対応案を考えることはこの先も人間が行っていくと考えます。

先行技術調査

各種特許調査の中でも難易度が低い(検索漏れが致命傷になりにくい)先行技術調査は真っ先に生成AIへの置き換えが検討される業務の一つです。

既に調査対象を入力すれば、検索設計をしてJ-PlatPatに貼り付けられる検索式まで作成してくれるGPTSが無料で入手できます。

また、これまで人間が行っていた文献の読み込みとスクリーニングも生成AIでできるようになっています(膨大な文献を読んで要約したり、調査対象との関連度を評価するのは生成AIが得意とするところ)。

ただし、後述するように人間による検索式や調査結果の妥当性評価やプロンプトの見直しといった調査の質を担保する措置は必要です。

生成AIが進化してもなくならない仕事

権利化方針・知財戦略立案

こちらは主に企業知財部での業務になります。

特許出願すべきか?、出願するならどのように権利取得していくべきか?といった権利化方針や、事業部からの一次情報に基づいて自社のビジネスに役立つ権利網構築の計画を立てるといった知財戦略立案は、生成AIが進化したとしても人間が主導権を持って判断していくことになります。

多くの企業で、新規出願や中間処理、先行技術調査といった定常業務に生成AIを取り入れたり、外注しようとしているのは、知財部員をこのような創造的業務に集中させるためとも言えます。

一方で、人間が主導的に行うとしても、生成AIは情報の整理や要約といった生成AIの得意とする作業で部分的に活用することで人間の判断を補助することに役立ってくれると考えます。

弁理士としての知見・判断が必要な業務

先ほど生成AIによってなくなっていく業務として特許事務所における弁理士の補助業務を挙げましたが、最終的なアウトプットに対して弁理士は自分の名前で責任を持たなければなりません。

生成AIが出したアウトプットを自らの知見に基づいて判断し責任を持つことが一層、有資格者に求められていくと考えます。例えば以下のような業務は弁理士による検討と判断が必要不可欠です。

  • 特許明細書のチェック・修正
  • 中間処理案文のチェック・修正
  • 新規性・進歩性判断
  • 侵害判断

調査計画・調査結果の妥当性確認

調査が生成AIでできるようになったとしても、生成AIに適切な検索条件やスクリーニングの基準を指示しなければ適切な結果は得られません。

また、生成AIの作った検索式や調査集合についても人間が妥当性を判断する必要があります。

生成AIの進歩で検索式作成やスクリーニングといった調査スキルが無用になるかといえばそうでもなく、このような業務で役にたっていきます。

人間同士のやり取り

文章ベースでのやりとりの多い知財業務ですが、

  • 自社ビジネス、他社状況のヒアリング
  • 知財戦略についてのディスカッション
  • 新規出願打ち合わせ
  • 拒絶理由対応における発明者との打ち合わせ

といった場面で人間同士やりとりは必ずあります。人が頭の中にもっているものを会話の中で自然に引き出すことは生成AIでは真似できません。こうして一次情報を収集して、他の業務にそれを活かしてゆくということは生成AIが進化しても人間主導で行われると考えます。

例えば、拒絶理由対応で発明者と話す前に事前に補正案をいくつか用意したりしますが、そこでは生成AIを使ってもよいと思います。しかし、発明者と話してみると発明の実施状況や事業状況によって事前検討で想定していない案を採用することはよくあります。

特許事務所への転職はまだおすすめ?

どちらかと言えば知財戦略や権利活用の計画といった人間にしかできない実務能力の延ばせる企業知財部でキャリアを積む方がよいと個人的には考えますが、特許事務所が生成AIで仕事がなくなるとは言えません。

生成AIを上手く活用して、弁理士としての知見・判断が求められる業務に集中して、案件を処理すれば売り上げを大きく伸ばせる可能性があります。

一方で、企業が明細書作成や拒絶理由応答案文を生成AIで内製化してしまうという脅威はあります。ただし、生成AIで作ったものをそのまま庁提出するわけにはいかないですし事務手続きも複雑なので、制度や法律に精通した弁理士がチェックするという工程は必要であり、それだったら明細書の作成から特許事務所に依頼した方が効率的なので特許事務所の仕事がなくなるわけではないと考えます。

弁理士試験を受ける価値はある?

生成AI時代における弁理士の役割は、生成AIが出力した結果を専門知識や経験に基づいて評価・修正し、アウトプットに対して弁理士として責任を持つことだと考えます。

企業の下請けや代筆屋のように企業知財部が決めた方針に沿って単に明細書や応答案文を書くだけの弁理士は仕事がなくなっていくでしょう。

一方で専門家として企業知財部が決めた方針に対して別の観点から見解や修正案を示したりするなど、「書く仕事」から「専門家・アドバイザー」としての役割が(本来の弁理士の役割ですが)より一層期待されます。

弁理士試験の勉強で得た法律や制度の基礎知識や弁理士として得た経験は役立つはずですし、弁理士が本来期待される役割に集中できるようになるので弁理士を目指す価値が失われることはないと考えます。

まとめ

AIは知財業務を効率化して、知財業務に変化をもたらすことは確実です。

しかし、本当に価値がある仕事は「評価すること」「、判断すること」、「人間同士のやりとり」です。

私自身も知財業務で生成AIを活用していますが、生成AIがあるからこそ、人間にしかできない仕事の価値を以前より強く感じています。

これから特許事務所への転職や弁理士試験を考えている方は、「AIに仕事を奪われるか」を心配するより、「AIを使いこなせる知財人材になる」ことを目指すことが必要不可欠と考えます。

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